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2004/01/01

鞄ひとつに詰め込める生活

E気配コレクション 040101

この文書は、十数年前に友人が係わっていたというサイトに書いたものの再録です

Img_3637_s 僕は若いころ「山登り」をしてました。山登りと言っても、ハイキングに毛の生えたような「ヤワ」なやつではありません。穂高の涸沢だとか剣岳の剣沢なんかにキャンプをはって、ロッククライミング三昧という本格的なやつです。もちろん雪山にも行きました。で、ですね、2週間も3週間もテント暮らしをするものですから、狭いテントの中での生活をいかに快適にするかというのは、これはもう非常に重要な問題だったのです。

 ピッケルだとかアイゼンだとかカラビナだとかハンマーだとかハーケンだとかショーケンだとか(古っ!)ただでさえ重い「カナモノ」を(今は軽いものができてるらしいけど、昔は実に重かったのです)どっさり持ったうえに、生活までしょっていかなくてはならないわけですから、当然のことながら文字通り「必要最小限」です。
 しかし、いやだからこそ、その「必要最小限」にはこだわったわけです。例えば「寝袋」なんかは、保温性や軽さを重視するのはもちろんですが、色にもこだわったものです。僕の場合真っ赤な原色のやつです。まわりのやつらもエメラルドグリーンのど派手なのだとか、鮮やかな紫みのブルーだとか、おサルもびっくりモンキーイエロー(そんな色あるんかいな?)だとか、とにかくどぎつくも派手なのばっかりです。
 なぜか。
 それはですね、雪山なんかで実にモノクロームな世界にいると、

色に飢えるからです。

白と黒しかないような世界で、何を好きこのんでか岩にへばりついてミーンミンではなくて、ヨロレリッティなどとやってて(ヨーデルのつもり。もっともほんとに岩登りしながらヨーデるようなアホスイスなやつはいませんけど)やっこらさとテントまで戻ってさあもうねましょうよ、なんて時に、真っ赤なシュラフは実に実にこころを慰めてくれるのです。テントの中はむさくるしい男ばかり、ということも関係してるんかも知れませんが、とにかく「国防色」の寝袋なんかではずえったいに癒されないのですね。真っ赤なシュラフひとつにこころをよせて、ちょっと気持ち悪いですけど、それだけでけっこうハッピーになれるという、まあ考えようによってはかなり情けない状況だと言えなくもないけど、その考えようによらなければ、都会ではちょっと味わえないような「タイトなゴージャス感?」というか「非常にシンプルでプリミティブな気持ち良さ」を満喫できるわけです。

 絶対的には「快適」からはほど遠い、制約条件の多い環境を、いかに気持ちいいものにできるかと工夫するというのは、けっこう楽しいことなんですね。

 シュラフだけではありません。なんて言ったっけ、あの数種類のおわんを重ねて収納できるようになった食器セットだとか、携帯お鍋セットのコッフェルだとか、十得ナイフだとか、当時はスイスアーミーナイフがまだ日本には出回っていなかったものですから十得ナイフなんですけど、ラジウスという携帯コンロだとか、夜にメシを食う時にも頭につけているヘッドライトだとか、一人でこっそり隠れて食べる「とっておき」のヨウカンを入れておくためのタッパーウェアだとか、着替えの服を雨から守ってくれる緑のナイロン袋だとか……みんなみんな、厳しい大自然の中でサバイバルしていくための必需品であると同時に、テントの中での生活を心楽しいものにしてくれるインテリアアイテムでもあったのです。だからこそ、当時の僕はなけなしのお金を使って、できるかぎり気に入ったものを揃えるようにしたのです。

最小限だけど、こいつらがあれば

どんなに厳しい場所に行っても、けっこう気持ちいい日々がおくれる。最小限だからこそ、ひとつひとつのものに実感として愛着が持てて、なおかつものに縛られずにフリーな気持ちで自然を楽しむことができる。身の廻りがきゅっと引き締まっているからこそ、自分の暮らしの輪郭をいつも実感できる。そのすがすがしくもロマンチックな気分がたまりません。こういうのを本来的な意味で「ミニマリズム」と言うんじゃあないでしょうか。
 山登りをしなくなった後、都会でのぐうたらな生活に浸りきっていても、この感じは忘れられません。できることなら「自分の生活のすべて」をちょっと大きめの鞄ひとつに詰め込めるくらいにしたい。もちろん、鞄の中に詰め込むものは、ほんとに気に入ったものだけにする。そして、その鞄ひとつもって、いつでもどこにでも思い立ったらぱっと行ける状態でいたい。たとえ実際には行かなくても、行けなくても、それが可能だと感じられるような、身のまわりの軽さ、シンプルさ、少なさ、そしてその少ないものへの「愛情」を保っていたい。

これって「男の子」の永遠のテーマなんじゃあないでしょうか。

間違っても「男の子」とは呼べないようなオヤジになっても、そのオヤジの中にほんの数ミクロンでも「男の子」の部分が残っているかぎり、やっぱりそれは永遠のテーマなんです。

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コメント

Interesting article, thank you for sharing.

投稿: Door Gift Ideas | 2018/08/18 02:39

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